「この風景いいな!」と思った時、すぐに水彩絵の具とスケッチブックを取り出す・・・水彩画家としてはこれが最高だ。
だが誰もがいつでもじっくりと絵が描けるわけではない。そんな時どうするか・・・今日はパソコン(タブレットも基本は同じだ)で簡単に絵を描く方法を教えよう。
ここはハワイ
この日、私は娘の結婚式のためにハワイにいた。ホテルのフロントでチェックインを済ませて、ホテルマンに案内されて予約した部屋に向かう途中だった。
ホテルはホノルルにあるハレクラニ。由緒ある有名ホテルだ。そのロビーから庭を見た風景が冒頭の絵だ。青い海、白い波、青い空、生い茂る椰子の木。(ちなみに私は一級建築士でもあるので日本でこんなに大きな椰子の木をこんなに庭に植えたらとんでもない金額になることを知っている)
クロッキー帳にスケッチ!
ハワイではごく普通の風景なのだろうが、南国にあまり縁のない私にはそれなりに驚きのシーンだった。
部屋に荷物を置いてさっそくスケッチしたのだが、実は使用した紙はクロッキー帳。そしていつものサインペンだ。
水彩紙に描かなかったのは、明日の結婚式の確認などの今からの段取り時を考えるとじっくりスケッチする時間はないと判断したからだ。色は塗れないのは覚悟の上だった。
画帳も小さく、特に構図に凝る必要もなかったのでペン書きそのものは、15分くらいで終えたと思う。
色が塗りたい!
だが帰国してからやはり後悔した。単なる結婚式の記録だから・・・と思い、色は塗らなくて良いと、その時は納得していた。しかしよく考えると、ハワイの海、空、やしの木をペンの線だけで描いてもまったく面白みがない。やはりハワイの風景の本質はその色彩なのだ。
幸いにも写真は撮って来た。やはり色を塗ろうと決めたものの、ご存知のようにクロッキー用紙はペラペラで、水彩絵具は塗れない。色鉛筆ではやはりペンの線が勝ってしまう。
パソコンで絵を描く!
基本のプロセス
そこで登場するのがパソコンだ。まず基本的な制作プロセスを説明しよう。
⒈クロッキー画像をスキャナーで読み取る。
⒉ペイントソフトでスキャンしたクロッキー画像を読み込む。
⒊白い部分を取り除き黒い線だけの画像にする。
⒋線だけの画像を一番上のレイアーにおく。
⒌最下層レイアー(背景レイアー)全面にグレー系の下塗りを施し、さらに粗目の表情をつける。
⒍空レイアー、海レイアー、波レイアー、芝生レイアー、椰子の木レイアーを作り遠くのレイアーを下に、近くのレイアーを上に置く。
7.それぞれのパーツを塗る。
8.全てのレイアーをオンにして完成。
注意事項は?
特に難しいテクニックを使っているわけではないし、筆ツールによる色塗りの操作は手描きと差はないと思うが、各プロセスに少しずつパソコンならではの注意事項がある。それを記しておく。
手順⒈
スキャナーの解像度はアウトプットをイラストとして印刷するなら350dpi~400dpiが必要だ。Web上のホームページで使うなら72dpiでも良い。
手順2.
読み取りの設定は本当は白黒モードがいいのだが、スキャナの性能、またはペンのかすれ具合により、グレーモードでないと線が飛んでしまう場合が多い。
手順⒊
白黒モードのjpgファイルならペイントソフトで読み込んだ時点で、画面には白か黒しかないので、白部分をスポイトツールで選択し、削除すれば黒いペンの線だけが残る。
グレーモードの時はどの範囲までのグレーを削除するかソフト内で調整して、黒い線以外のグレーを全て削除する。
手順⒋
このペン画のレイアーを一番上に置くことがポイントだ。
通常の水彩画技法では、最初に線で下書きし、上に色を重ねるだろう。だがパソコンで同じことをすると下の線を消してしまう。
もちろん、パソコンの色にも透明度が設定できるようになっていて、例えば透明度50%とすると下の色が半分透けて見える。
だがペンの線に限ってはたとえ50%であっても上に色を重ねれば必ず線は白っぽくなり、黒いペン画の美しさは損なわれてしまうのだ。
手順⒌
通常最下層レイアーは白だ。水彩紙も白なので本来白でいいはずなのだが、パソコンの白色は水彩紙のように反射光の白ではなく発光する白なので、輝度が高く、そのままでは上のレイアーの色が派手になりすぎるのだ。
そこで私はグレー系の色を下地レイアーにしている。水彩画っぽく仕上げようと思ったらさらに描画ソフトに搭載されたフィルター機能で表面を荒らすと良い。
手順⒍
遠くの風景を下のレイアーに置く理由は、上の絵で下の絵が隠れてしまうからだ。この原則は手描きと同じだ。
手順⒎
遠くにある風景から描いていこう。通常はまず空、その上に雲を描くと良い。
多分現地で写真を撮ったと思うが、その写真ファイルを描画ソフトで同時に開いておき、写真の空の色をスポイトツールで吸い取り、空レイアーに塗ると良い。
空は面積が広いので筆ツールよりもバケツツールで塗りつぶす方がムラなく塗れる。
今回は水平線の青、上空の濃い青それぞれをスポイトツールで拾い、グラデーションをかけた。
この辺りは描画ソフトのマニュアルを見て気に入った仕上げ具合になるように、試行錯誤して欲しい。
パソコンの一番良いところは、気に入った色調になるまで何度でも一瞬で、シミュレーションできることだから。
次に海、波を描く。海もバケツツールで、不透明度を60~70%程度にすると、下地のグレーとちょうどよく馴染むようだ。波は筆ツールで、白を際立たせたいので当然、不透明度100%。
椰子の木、葉、パラソルなども筆ツールで不透明度100%で描いた。芝生と道は同じレイアーの中で描画色の不透明度を場所に寄って調整している。
例えば、道の部分は下地のイエローグレーがそのまま見えている。
手順⒏
全てのレイアーをオンにすれば完成。とても簡単だ。
特に水彩なら悩むであろう、空や海の色を写真から直接拾うので、悩まなくていい。短時間で作成できる、イラストとしては最大のメリットだ。
あとがき
今回はレイアーの順序と色の透明度だけでイラストを描いた。しかしこのやり方は最上部のレイアー色が優先されることに変わりはない。下層のレイアーを上層より明るく鮮やかにしたいときは、レイアーマスクというテクニックが必要となる。それについてはパソコンによる水彩風イラスト 中級編として後日、説明するつもりだ。お楽しみに。
P.S.
スケッチ旅に興味のある方は「ピースボートでゆく世界一周スケッチ旅→」をご覧いただきたい。私の失敗談は大いに参考になるだろう。
[…] そう決めて、最初に考えた画法は、ペンの線で描かれたパーツを水彩絵具で薄く塗っていくこと。色は基本的にその素材の色を使う。 この絵は京都の中央郵便局。サインペンでスケッチした後、薄く透明水彩を施している。スケッチブックの紙は薄く、滲み防止加工がされているわけではない。だから透明色の重ねによる美しい発色と繊細な表現はできない。 そのため色を限定し、重ね塗りをしないことにした。使用したのはレンガ色のバーミリオン、石色のアイボリー、銅板の青緑、後は三原色の混色による濃い装飾の縁取りをサッと塗っただけ。そして最後に画面の一番バランスが取れる位置に青空を描けば良い。 下書きをしないので、制作時間は短い。A4サイズだが1時間未満でペン描きは終了したと思う。着色も一塗りしただけなので30分ちょっとしかかかっていない。とても効率よい描き方だ。 もし鉛筆の下描きに同じような素材の色だけを塗ったとすると、単なる塗り絵になってしまうかもしれない。だがインクの上の透明水彩ならば、線の表現が強い分、素材色を薄く重ねるだけで、絵になるのだ。 「水彩でイラストを描くにはどうしたらいいですか?」という質問を時々聞く。イラストの定義を「対象を明確に、美しい表現で説明する絵」とすれば、まさにこのペンと水彩を使う描き方はイラスト作品にふさわしい。イラストに興味ある人は試してみたら良いだろう。 なお、クロッキー帳にペンで描いた場合は紙が薄いのでその上に、水彩は塗れない。それでも後から着彩して、イラストにしたいと思うことはあるだろう。そんな時私はパソコンを使っている。具体的なプロセスは(パソコンで描く水彩風イラスト)を参考にしてほしい。 […]
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[…] ハワイ、オアフ島のホノルルでの滞在の目的が娘の結婚式だったことはすでに述べた通り(詳細はこちら→)。 翌日せっかくの機会なので、リゾート地として開発されたというカウアイ島へ渡った。この島はホノルルのあるオアフ島と違い、文明の気配をまったく感じない。未開の地といったイメージだ。かの有名なジュラシックパークのロケ地になったというのもうなづける。 […]
[…] P.S.ペン画をパソコンで簡単に水彩画風の作品に仕上げる方法は別に記事を書いているので、興味のある方は参照して欲しい(詳細はこちら→)。 […]
[…] パソコンによる作品の作り方はすでに「パソコンで描く水彩風イラスト初級編(詳細はこちら→)」を書いているが、この時はその初級のテクニックも知らず、とりあえず筆ツールで色を塗っただけと言うものだ。でも外観の雰囲気はそれなりに表現できたと思っている。 […]
[…] この町の見所は二つある。 一つめは重要伝統的建造物群保存地区」に指定されている八幡堀沿い、および新町通りの町並みだ。 八幡堀通りは川沿いに並ぶ蔵や商家、船着場など江戸時代そのままの町並みが素晴らしい。 冒頭に掲げた絵はクロッキー帳にペン描きでスケッチし、パソコン、フォトショップで着色したものだ。下書きもしない、クロッキー作品なので時間はほとんどかかっていないが、それなりに風景画として意図は表現できる。 この描き方に 興味のある方は「パソコンで描く水彩風イラスト」(詳細はこちら→)を参考にしてほしい。 […]
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