空の色は何故グラデーション?

 風景画を描くのが好きな人へ

 あなたは水彩で晴天の空をどのように描くだろうか?
 技法は個人差があるだろうが、青い絵具を使うことは間違いない。だが空の青は国によっても違うし、季節、時間、見る角度によっても違う。一色の絵具で描き切れるほど単純ではない。

 そこで今回は空の色の不思議を科学的に捉え、表現の理論的根拠を確認したいと思う。
 もしそうではなく具体的な描画テクニックが知りたいという方は「水彩画入門!美しいグラデーションの作り方→」および「水彩画入門!空と雲の描き方は?→」、「透明水彩実践テクニック!空と雲の描き方→」を参照してほしい。

目次

  1. 色の基礎知識
  2. 空はなぜ青い
  3. 夕焼けはなぜ赤い
  4. 青空のグラデーションはなぜ出来る?
  5. まとめ

色の基礎知識

 「色」の科学的な基礎知識については「水彩画の魅力「色」とは何だろう?→」を参照してほしい。ここでは今回のテーマに直接関係する概略だけを復習しておく。

 光とは波長の違う電磁波が混じったものである。私たちが物に色を感じるのはその物体が特定の光の波長の光だけを反射して目に入るからである。

 すべての波長の光を反射した物体は白になり、すべての波長の光を吸収する物体は黒になる。虹は波長の長い順(赤橙黄緑青藍紫)に7色が分離したものである。

空はなぜ青い

 では空はなぜ青いのか。それは大気中の酸素や窒素の分子やチリなどの粒子が青い光だけを反射するからだ。反射は繰り返され乱反射となる。だから大気は直接太陽を見なくても青い色で満たされているのだ。

 もう少し科学的に説明すると、大気中の小さな粒子のサイズ(40ナノメートル以下)と同じような波長の短い光(青色:約400ナノメートル)はぶつかって反射するが、波長の長い光(赤色:約700ナノメートル)は粒子を飛び越えて直進する。だから太陽の光は青が取り去られた黄赤の色をしている。

 ターナーの絵の中で太陽に向いた空気の色が黄赤色になっているのはとても論理的なのだ。

夕焼けはなぜ赤い

 それでは夕焼けは何故赤いか。地球の周りには同じ厚さで大気がある。したがって太陽が水平線に沈む時は私たちの目に届く光は太陽が真上にある時よりも長い距離を通過することになる。

 青い光は大気圏に入った直後から大気の分子に反射、分散され残った赤い光だけが私たちの目に入る。だから夕焼けは赤いのだ。

青空のグラデーションはなぜ出来る?

 空が青い理由、夕焼けが赤い理由はわかった。だが実際に空を描く絵描きとしては、さらに問いたい。
 空は晴天の青や夕焼けの赤一色ではない。常にグラデーションになっている。だから水彩画でそれを表現するのに苦労するのだ。

 晴天の時、真上の空は抜けるように青く、水平線に近づくにつれて青味が薄くなり、赤黄色が混じる。なぜこのグラデーションが生ずるのだろう。

 実は、色々な本を調べたが、ずばりこの疑問に答えてくれた科学的記述は発見できなかった。だが、基礎理論から推測すればその理由は以下の通りだろう。

 空の色は太陽の光が大気圏にに入ってから私たちの目に届くまでの距離とその間に浮かぶ大気中の粒子の大きさによって決まる。

 空が青いのは酸素や窒素など小さな粒子のせいであり、夕焼けが赤いのは光が届くまでの距離が長いせいである。

 空のグラデーションを理解する上ではもう一つ光の減衰という現象が関与する。どの波長の光も大気中の水分(雲)などの大きな粒子に対しては反射する。その際粒子は光のエネルギーを一部吸収してしまう。だから光は反射を繰り返すうちに減衰して徐々に暗くなる。

 雨雲を下から見ると黒いのは全ての波長の光が反射と吸収を繰り返しているうちに、エネルギーが減衰して私たちの目に届かなくなってしまうからだ。

 昼間の晴天時の空の色のグラデーションを考えよう。太陽から地球に届く光は平行光線である。昼間の光は真上でも水平線際でも同じ角度で大気圏に入る。

 大気圏に入った真上の光のうち青い光が大気の粒子で反射しすぐに私たちの目に入る。ところが水平線際の光は同じように青い光が反射されるが私たちに目に入るまでの距離が長いため、反射のたびにエネルギーが減衰し青い光は消えてしまう。

 それに対して黄赤の光は大気の微細な粒子には反射されない。水分のような大きな粒子によってのみ反射される。従って青い光に比べるとエネルギーの減衰が少ない。

 空の色がグラデーションになるのは私たちの目に届く距離が伸びるに従い(水平線に近づくに従い)反射を繰り返す青い光のエネルギーが徐々に減衰し、水分で反射されたエネルギーの減衰の少ない黄赤の光の成分が多くなるからである。

 それでは次の質問だ。私が描く風景画の空の色は同じではない。フィレンツェの夏空は鮮やかな深みのあるウルトラマリンブルー、神戸の夏空は水色に近いセルリアンブルーだ(加藤美稲水彩画作品集→」を見て比べてほしい)。何故だろうか?

 それは湿度の差だ。フィレンツェの夏は湿度が低い。つまり空気中の大きな粒子である水分が少ない。だから黄赤の光は反射されず、地面に直接届く。エネルギーも減衰しないので眩しい。空には小さな粒子に反射拡散する青い光だけが広がる。

 一方神戸の空は湿気があって、空気中の水分が多い。つまり青い光だけでなく黄赤の光も大気中で反射する。だからそれらが混じりあって薄い水色に見えるのだ。

まとめ

 いかがだろう。水彩画家を悩ませる「空のグラデーション」。それを決めるのは、光の波長、大気中の粒子の大きさ、反射吸収とエネルギーの減衰だった。
 これを知ればもう空の描写で悩むことはない…筈はないか…。

P.S.
このブログにある関連記事は以下の通り。興味のある人は参考にしてほしい。

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