水彩で描く「みちのくの城下町」…弘前市仲町(なかちょう)

弘前を描くなら・・・

 真夏の弘前を訪れた。もちろん水彩画を描くためである。
観光客に最も有名な場所は弘前城だろう。特に春の「桜」は有名だ。
 実は私が子供の頃、叔父に連れられてこの「満開の桜」を一度だけ見たことがある。天を覆う”鮮やかな桜色”(”淡いピンク”ではなく)に圧倒されたことを覚えている。

 だが今は真夏。残念ながら桜の水彩画は描けない。
実はこの町は津軽藩主「津軽為信」が江戸時代に計画した城下町で、現在その一角が「仲町(なかちょう)重要伝統的建造物群保存地区」として残されている。
 そう、今回はその武家屋敷群をスケッチするのが目的である。

重要伝統的建造物群保存地区…「仲町(なかちょう)」

 絵となる構図を求めて,町並みをじっくりと歩いた…正直な感想を記そう。上の写真を見てほしい。
 武家屋敷の町並みとしての面影はほとんど残っていない。黒く塗られた武家の門と道路に面したサワラの生垣が町としての統一感をかろうじて保っているもののの、視界に映る住宅はほとんどが最近建て替えられた現代住宅ばかりだ。
 とてもスケッチする気にならない。


 もちろん上の写真のように文化財として保存、公開されている古い民家もある。だがいずれも展示用に移築されたものがほとんどで町並みとしての連続感も生活感も全くない。

 重要伝統的建造物群保存地区の制度が制定されたのが昭和50年(1975年)、この仲町が選定されたのは昭和53年(1978年)なのでかなり早い時期に選ばれている。

 私の経験では、早期に選ばれた町並みほど保存状態が良い。
 これまでスケッチに訪れ、このブログでも紹介している奈良今井町仙北市角館や京都産寧坂、岐阜県白河村などが良い例であり、いずれも保存状態が良い街並みばかりであり、水彩画の題材としては最高である。

 それに比べてこの仲町はちょっと寂しい。おそらく制定後40年余りの間に、現代住宅に建て替えられ、変わってしまったに違いない。とても残念だと思う。

スケッチにおすすめの場所は?

 そんな仲町の町並みであるが、スケッチしたいと思ったシーンが二箇所あった。
 一つは冒頭の水彩画。弘前城にまっすぐ続く通りに面した数少ない倉のある風景だ。両隣の建物もそれなりに当時の雰囲気を伝えてくれている。

 すこしだけ作品の解説をしておこう。スケッチブックの大きさはSM(サムホール)。
水彩紙はファブリアーノのトラディショナルホワイト。紙の色はこのややアイボリー色のトラディショナルホワイトと純白のエキストラホワイトの2種類がある。

 水彩で仕上げたとき,前者は落ち着いた統一感ある色調に,後者は明るい肌色が美しく出る。だから私は前者は風景画に後者は人物画に使うようにしている。 

 水彩絵具は愛用のウィンザーニュートンの24色固形絵具だ。今回は真夏のイメージを強調して描きたかったので、空の表現に気を使っている。
 通常使用するコバルトブルーは夏空には青すぎる。
 だから今回は水をたっぷり使い,明るいコバルトターコイズをメインにウィンザーバイオレットを少し垂らしている。

 地面を描くのは案外難しい。なぜなら現実にはアスファルト舗装で全面がグレーだ。
だがそのまま描いては「いい水彩画」にはならない。
 地面を照らす真夏の光を強調するために、部分的に明るく、紙のアイボリーをそのまま残している。

 スケッチしたかった今一つの風景はメインストリートから見る武家の門が映る構図だ(上の写真)。
先に述べたように門構えの奥にある家屋はそれほど魅力あるものではないが、背後に聳える岩木山の勇姿が素晴らしい。(オート撮影の写真では麓の部分しか見えないが、実際は山の形が見えていた。残念!)

 本当は真っ先にこの風景を描きたかったのだが、ご覧のようにこの時間、真夏の夕日が逆行となってまともに私の目に飛び込んでくる。とても絵は描けない。
光の方向か考えると、午前中にスケッチするのがふさわしいと知る。

 翌日、今度こそと勇んで同じ場所に行ったものの、空気が淀んでいるせいだろうか、もはや岩木山の勇姿は見えなかった。

 今回の旅、天候は私に味方してくれなかったようだ。
 でもあの光景はしっかりと目に焼き付いている。いつかは水彩画として完成させたいと考えている。

 P.S.

このブログには本文中以外に下記の参考記事がある。興味のある方は参照してほしい。

  1. 参考カテゴリとしては
  2. スケッチ旅について
  3. 風景画の描き方
  4. 水彩画の道具