顔と手のデッサン、おすすめの教本は?

人物デッサンの基本とは?

 あなたは人物デッサンの基本となる顔の描き方、基本の比例関係を知っているだろうか?

 こんな質問をしたのは、カルチャーセンターの「水彩画教室」「人物画教室」などを覗くと案外生徒の「個性重視」で理論は二の次、本人の好きなように描かせているだけというところもあると聞くからだ。

 お金を払って、得るのは技術ではなく「自由」だけというのも寂しい気がする。
 一方で親切な講師がいるところは、以下のような基本くらいは教えてくれるだろう。

「まず顔を卵として描きなさい。目はその卵の上下の真中にある。そして眉と顎下端の半分の位置が鼻の下である」と。

 しかし人物画は難しい。上の理屈を覚えている程度ではうまく描けないだろう。
 風景画ならよほど遠近法の理屈(「下書きはいらない!建物のある風景をペンで描く→」を参照)を無視しない限り、デッサンの狂いを指摘されることも、酷評される事もない。

 しかし人物画は目、口、鼻、耳の位置と顔の大きさの基本比率を間違えると、モデルに似る似ない以前に、人間の顔に見えなくなってしまう。

 しかも、厄介なことに、この「基本比率」はどうやら素人にもわかるらしい。絵を描いたことの無い人にも「おかしい」ことだけは指摘できるのだ。本当に人間の目は不思議だと思う。

基本だけ知っていても…

 先に書いた「目が頭の半分の位置にある・・・」というルールは正しい。私も長い間これを頼りにデッサンをしていた。
 だがこのルールはあくまで人間の顔を正面から見た時にのみ通用する。

 だから顔を傾けたりすると途端に適用しにくくなる。
 例えば斜め上を見た人を考えよう。
 両方の目は卵形の円形ラインに沿って、並ぶことになるが、もともと人間の顔と卵とは膨らみ方が違うので、もはや目があった水平ラインは何の役にも立たない。

 しかも首の付け根や、あごの形や耳のつき方は卵を想定して基本比率を想定していてはたぶん描けない。
 だから結局、最後は「モデルをよく見て描きなさい」ということになる。

 モデルが優秀で動かない人ならば「よく見て」描けるが、基本のできていないモデルを描くと悲惨だ。
 最初に顔を描き、デッサンが全部終わる頃には顔の向きが最初とまるで変っていたりする。

 基本比率が通用しない角度の位置で描いていると、どこを修正したら良いかわからなくなる。

おすすめの教本は?

 だからモデルが多少動いても、正確な顔が描ける方法、手順はないかと探りたくなる。
 実はそれを教えてくれる本がある。 冒頭に写真を掲げたA・ルーミス著「やさしい顔と手の描き方」だ。

 出版は1977年と記載されている。随分と昔の本だが、今でもAmazonで在庫を気にすることなく手に入る。よほど人気があるのだろう。

 私も読んでみた。
 図解が必要なので、詳しい解説は避けるが、今まで覚えていた方法と違うのは以下の2点である。

  • 顔のデッサンの最初のガイドラインは目ではなく眉である。
  • 頭の外径は卵形ではなく半球形の両サイドをカットした型に顔の平面をくっつけた形である。

 著者はこの理論を人間の頭蓋骨から導いたという。
 この方法の一番良い点は顔の基本比率が正面から見たときだけでなく、立体として詳細に理論を展開できることだ。

 もちろん練習が必要なのだが、彼の理論を突き詰めれば、どんな角度の顔も自由自在に描けるという。
 私もその理論を現在習得中だ。
 ただ頭を両サイドをカットした球と捉える感覚がまだ身についているとはいいがたい。

 私の場合、顎下の位置を決めたときに、頭の球体を実際より小さく描きがちなのだ。だから結果的に眉と目の位置が上がり過ぎ、面長の顔になる。
 この失敗については「顔のデッサン3つの教訓!なぜ似ない?→」を参照してほしい。

 そんな注意点はあるものの、解剖学を前提にかかれているだけあって、本の内容全般にとても説得力がある。

 もし今から、顔の基本的な比率について知りたい、何か本で勉強したいと思う人がいるなら、是非この「やさしい顔と手の描き方」を読んで欲しい。きっと役に立つはずだ。

P.S.
今回は顔のデッサンをするときの本について書いたが、以下のような関連する記事を書いているので興味のある人は参考にしてほしい。

P.P.S.
私の作品は加藤美稲水彩画作品集→で閲覧できます。
また作品はオンラインストア「水彩STORE/美緑空間」で購入できます。