シエナの町とは
イタリアの古都シエナはフィレンツェから電車で1時間ほどの距離にある。フィレンツェにホテルを取り、日帰りで絵を描きに行くにはちょうど良い。
町はフィレンツェほど大きくはないが、中世の姿をそっくりそのまま留めている。もちろん世界遺産だ。だから町の見所、描きどころは山ほどあると言っていい。
しかしこの日も相変わらずの弾丸ツアー、スケジュールはきつく、描く時間は半日ほどしか取れない。だから描く場所は事前に調べていた。カンポ広場とシエナ大聖堂だ。
シエナ大聖堂!でも。
最初に訪れたのは冒頭の写真、ゴシック様式(「ヨーロッパ風景画の基礎知識 ゴシックとロマネスクの違いを知っている?→」を参照)のシエナ大聖堂。
早速スケッチブックを広げペンでスケッチを始めた…ところがご覧のように空が黒い雲に覆われて、雨が降り出した。
しばらく雨宿りしていたが、結局その後も、雨は止まず、シエナ大聖堂を描くのは断念せざるを得なかった。
やむを得ず、カンポ広場に向かったが雨が止む気配はない。
マンジャの塔を有するピアッツァ・カンポを描くつもりだったが、広場には雨を避ける場所もない。
しかも広場の周辺の店舗は雨宿りを兼ねて押し寄せた観光客が殺到し、とても絵が描ける状態でない。
雨に濡れず、絵が描ける場所はないかと、一時間以上町を歩き回っただろうか。
マンジャの塔を描く
見つけた!
薄暗いの路地の先にマンジャの塔がそびえ建つ。
しかしこの時、正直言えば、傘をさしていたとは言え、すでに体は雨に濡れて疲れ果てていた。
とても大きなスケッチブックを広げる気にならない。そうして描いたのが0号の一番小さなスケッチブックの一枚、この水彩画である。
ご覧の様に道幅は極端に狭い。あまりに狭く、横を通る観光客も多いので、スケッチの必須道具である折り畳み椅子を広げるのも憚られた。
疲れている上に、立ったままスケッチする羽目になったので、描いたのは最小限の線だけ。だから現地でスケッチした時間は20分もかからなかったのではなかろうか。
結局この日何とかもう一枚F0号をスケッチしたものの描きたい構図とはならず、不満だらけの一日となってしまった。
スケッチの解説
この水彩画は帰国後着彩したものであるが、いつもの私の絵とは雰囲気が少し違うことにお気づきだろうか?画面が暗く、にじみが多いと思う。
理由は水彩紙がいわゆる「風邪をひいていたからだ。簡単に言えば保存状態が悪く表面のサイジング効果が無くなり絵具が塗った瞬間に紙に吸い込まれてしまう状態だ。(興味のある人は「水彩紙が風邪をひいた!どうする? ベルガモのスケッチより→」を参照)
通常水彩紙が風邪をひくとはっきり言って、何色を塗ろうが「絵にならない」。
にじみの範囲、程度はまったくコントロールできない。水と紙任せになってしまうからだ。
だがせっかく海外スケッチ旅に行ったのにこのまま捨てるにはあまりにもったいない。
何とか水彩作品に仕上げようとしてかなりの工夫をしている。
滲みはコントロールできないが、私の絵は幸いペンで下描きがしてある。だから多少にじみがはみ出ても気にならない。
滲んで黒ずんだ色になることを計算して、水彩絵具を垂らし、石の肌合いを描いている。黒っぽい滲みは案外古い石壁の風化具合を表現できるのだ。
一方ですぐ沈んだ暗い色調が広がってしまうので、明るめの壁の反射光部分は一気に塗ってはいけない。慎重に少しづつ、絵具を滴らしていくのだ。
それなりに壁は仕上がってきた。
問題はマンジャの塔の部分だ。路地の闇と対照的な明るい塔を細くためには、微妙なペンの線をはみ出ないように正確に絵具を塗りこむ必要がある。
しかし風邪ひき水彩紙の上では、どんなに高級な筆を使おうが細い線を引くことは不可能なのだ。
だからこの部分は普段使ったことのない「色鉛筆」を使っている。苦し紛れではあるが、最後まで風邪引き水彩紙の始末をつけるには、手段は選んではいられない。やはり慎重に色鉛筆を選んで石の肌合いを描き込む…何とか完成。
こうして何とかせっかく描いたスケッチを捨てず、水彩画に仕上げることができた。だが、二度とこんなことはしたくない。
それ以来私は一度封を切ったスケッチブックは乾燥材とともにビニール袋に密閉して保存している。皆さんも水彩紙の保存には気を使ってほしいと思う。
P.S.
今回は言ってみれば私の失敗談。でも案外他人の失敗談はためになると思っている。だから制作上の失敗談はこれからも随時、掲載していこうと思っている。
自分で水彩画を描こうと思っている人は是非読んでほしい。きっと参考になるはずだ。
またこのブログの過去の関連記事は以下の通り。興味のある人は参照してほしい。
- カテゴリとして
- 「スケッチの旅海外編→」
- 「絵画上達法→」
- 「加藤美稲水彩画作品集→」
- スケッチ旅について
- イタリアの見どころ
- 水彩画の描き方
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