橋が似合う!プラハの風景をスケッチ

スケッチの旅、今はウィーンからプラハに向かう列車の中だ

 いかにオプティミストの私とは言え、外国で財布もカードなくすという致命的な失敗を犯すと、またなにかトラブルが起きるのではという不安にかられる(「ウィーンで待っていた大失敗とは→」を参照)。
 プラハの地下鉄の駅に着いたのは夜の9時半。地図で見る限りホテルまで歩いて5,6分のはず。あと少し。「今日は無事終わった・・・。」
と安心しかけたのは、やはり早計だった。

中世の街並みがそのまま残るこの町は道に東西南北という観念がまったくない

プラハの夜道

  目指す方向の目印となるプラハ城の夜景は見えるものの、 目的のホテルは、おかしな角度でつながる迷路がどこまでも続いていて、歩けど歩けど現れない。伝えてあるチェックイン予定時刻はとっくに過ぎ、予約を取り消されていたらどうしようなどと心配してしまう。

 たまらず目の前にあった適当なホテルのボーイさんに必死で相談し、やっと現在位置がわかる始末。そうしてホテルにたどり着いたのは午後11時前。真っ暗なロビーにともるフロントの明かりと出迎えてくれたお嬢さんの笑顔にほっと一息。

 チェックイン時に心配していたクレジットカードをなくしたことを伝えたが「ノープロブレム」とのこと。こうして長かった一日が終了した。

 翌日早朝。トラブル続きのこの旅行だが、スケッチしたいという気力だけは衰えを知らない。朝食前に描いたのがこの風景。有名なカレル橋の上からプラハ城を望むスケッチだ。

 日本だと、いい風景だと思っても大抵、画面のどこかに余計な建物が入り、構図に余計な工夫がいるのだが、この街ではそんな心配は不要だ。なぜなら周囲360度、どこを見ても絵になる風景ばかりだからだ。

 当然建物はどれも昔の姿のまま、自然の風景を不自然に切り取るような高層建築もない。
 しかもこの日の空は暗く、雲も怪しげで幻想的。真夏だというのに震えるほどの寒さ・・・。本当に中世にやってきたかのような錯覚を覚える。

なんと素敵な町なんだろう

 気に入った!しかもありがたいことにプラハのこのホテルは「朝食つき」。この旅行で初めてまともな朝食にありついた。もちろんカマンベールもブルーチーズも抜群においしかったことはいうまでもない。

 この日の狙いははまずドナウ川の西側、プラハ城がメインだ。たっぷりと栄養を採ったせいか、足取りも軽かに、坂道を登る。どの建物も入り口周りの装飾は個性的で、デザインを競い合っているようだ。

 目に映る風景はどれもこれも見ていて飽きることがない。道は角度を少しずつ変えながら登ってゆき、ちょうど軒先が切れ、空が広がった瞬間に絶妙の構図が現れる。

 路地の床も建物の壁もすべて石造り。長い歴史にその表面は風化したのか、グレーがかった独特のベージュ「プラハ色」で街を染めている。
 屋根瓦のオレンジは鮮やかな対比を見せ、緑の木立は生き生きと茂り、プラハ城が絶妙なプロポーションで丘の上にそびえる。

 美しい!思わずつぶやいたこの言葉に偽りはない。視界に入ったプラハ城を目指してひたすら坂道を登る。

 かなりの急勾配で、本当はつらいはずなのだが、私を含め周囲の観光客の表情は実に楽しそう。
それもそのはず。いつのまにか視界はひらけ、眼下に広がるのは美しい市街地。

 そして目の前には次から次へと古い建造物が現れ、足の疲れに気づく間もなく、プラハ城に着いてしまうのだ。
 ちょうど、城の入り口では門番が交代の儀式の真っ最中。広場の楽隊がそれらしい音楽を演奏中。これがきっと中世の日常なのだろう。

プラハ城入場

 そして私もいよいよ入城。中心はこの聖ヴィート大聖堂だ。巨大すぎて、城内の路地の視界からではとても捉えられない。

 裏手の広場に廻ってやっと、その全貌を見ることができた。ゴシック建築の特色は垂直性の強調だとか(「ヨーロッパ風景画の基礎知識 ゴシックとロマネスクの違いを知っている?→」を参照)。それにしてもその垂直線の多いこと。ここにスケッチに来た多くの画家を泣かせたに違いない。

たっぷり1時間半・・・ひたすら線を重ねなんとかスケッチ完成。

聖ヴィート大聖堂

 隣に座っていた婦人がスケッチブックを覗き込み、「Beautiful!」といってくれたのがせめてもの慰めだ。

 聖ヴィート大聖堂で精力を使い果たしたからなのか、見所が多すぎてアングルが決められないからなのか、午後からはスケッチブックを広げることも無く、モルダウ川を越え、プラハの町をそぞろ歩き。

 建物の外観は中世のままでも、もちろん現代の生活が営まれている。中心部にはデパートもあって、チェコらしい高価なボヘミアンガラスや陶器が並んでいる。

 もちろんお金もカードも落とした私にそんなものは買えるはずも無く、スーパーマーケットで夕食(例によってパンとチーズとワインのみ)を買うのが精一杯。

 さて、この日の散策スケジュールをすべて終え、疲れた足を引きずってカレル橋を渡り、ホテルに帰ろうとしたとき、この光景が。

 赤い大屋根が続くさまだけでも十分に美しいのだが、運河の中央に朝は見落としていた水車が回っている。さっそく橋の上で立ったまま、この日最後のスケッチをした。おかげでわずかに残しておいた夜遊びの気力も使い果たしてしまったことを付け加えておく。

 さて翌日。カレル橋の両端にはちょっとグロテスクな尖塔をもつ橋塔がある。中世の頃この橋が街を守る唯一の橋だったため、軍事目的で作られたらしい。

 橋の北側から眺めると左にその搭がアーチ橋梁を受けるように建っていて、右には華麗なドーム屋根をもつチェコの芸術の殿堂「国民劇場」が鎮座する。

なんて絶妙なバランス!こんなにも橋が似合う街を知らない

 そして、カレル橋を南側から見ると背景はあのプラハ城。きらめく水面、石造りのアーチ橋、豊かな森、そして中世の城。プラハNO.1の絶景だ。 この風景をみるためだけでも、もう一度訪れたいと思っている。

カレル橋とプラハ城

 カレル橋からモルダウ川沿いに南へ歩くとこのマサリク海岸通りに出る。赤い屋根は統一されていて、軒の高さもほぼそろっている。外壁はアイボリーからベージュの落ち着いた色調。適度に濃淡の変化がある。でも窓周りや建具のデザインはどの建物も装飾的かつ個性的。

 そして街並みのアクセントの尖塔が互いにデザインを競い合っているように見える。中世の町並みが続く世界遺産の旧市街からは少し離れ、時代も新しい建物なのだが、日本で言えばどの建物も江戸時代末期から明治時時代の建物。これほどの歴史ある街並みは日本にはない。

 さて今回のスケッチ旅行はこれで終わり。プラハでは実質2日しかスケッチできなかったこと、お金もカードも落としたために、美術館などにほとんど入れなかったことなど、とても不満が残った。

 いつになるかはわからないが今度はプラハからブタペストヘというスケッチ旅行を企てたいと思っている。その時はスケッチブック一冊をすべて使い切るつもりで。

P.S.
このブログでは文中にリンクを張った他にも以下のような関連記事がある。興味のある人は参考にしてほしい。

■カテゴリ

■スケッチの知識とテクニック

■風景画の描き方については


メールアドレス  *

1件のコメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください