■手のデッサンにこだわる訳は?
初心者が人物画を描き始めて最初に悩みむのが顔のデッサン。そして次が手のデッサンではなかろうか。顔については「顔のデッサン練習中!?知っておきたい5つの勘違い→」参照してもらうとして、今回は「手」にこだわってみようと思う。
というのは、私が学生時代以来久し振りに人物画を描き出して、ブログに投稿し始めたころ、自分では特に気にしていなかったのだが、親切で手厳しい友人から「手が変だね」、「女性の手に見えないね」など手のデッサンに関する私指摘が多かったからだ。
さらには、その頃お付き合いのあった芸大の関係者からも「手が描けたら一人前だ」と教授に言われたとかいう話も聞いた。それほど人物画における手の表現は重要だということだ。
■どうしたら手のデッサンは上達するのか?
徹底的に練習あるのみ・・・!では、いささか不親切だろう。私自身の経験から学んだ上達のポイントをまとめてみた。参考にしてもらえれば光栄だ。
まず最初に指摘しておきたい。手のデッサンが難しいからと言って、いきなり自分の手を見てデッサンし始めた人は、ちょっと勘違いしている。
初心者の絵で「手がおかしい」という時、その理由は女性らしい、優しいふくよかな手になっていないという意味よりも、もっと根本的なところ、画面の中に収まる手の大きさがおかしいということなのだ。
だから自分の手だけを見つめ、一生懸命デッサンしても、いつまでたってもいい絵にはならないだろう。
■手の大きさが変になるのには主として2つの理由がある。
一つは手を描くときにも建物を見るような遠近法の意識が必要だということ。具体的に説明しよう。
まず基本の条件を設定する。モデルさんのポーズは椅子に座り、両手を膝の上に置いているとしよう。よくあるポーズだ。
そしてあなたはモデルさんの正面に座ってイーゼルを立て、6号のスケッチブックにデッサンをしている。(この時描くのにややこしいからといって、手を入れない構図にしてはいけない。6号の大きさで手を入れない構図はとても不自然だ。)
仮に頭から膝下くらいまでを画面に納めたとしよう。手の位置はあなたの目から見て顔よりも手前にある。
さてここで皆さんに質問だ。顔と手の大きさの通常の比率をご存知だろうか?正解は顎下から額の髪の生え際と手首から中指の先端までの寸法は同じ、つまり1:1の比率で、本来、顔と手は同じ大きさなのだ。
ところが今あなたが描いている手が膝の上にあるということは、あなたの目から見て顔よりも手が前にある。だから顔よりも大きく描かなければいけない。しかしどうも人間の意識は通常(顔と手の比率が1:1)より大きく描くことに抵抗があるらしい。意識しないとつい、手を小さく描いてしまうのだ。
もう一つの原因は手のひらの角度を意識できていないこと。あなたがモデルさんを正面から見ているとすると、横にした手のひらを正面側から見ることになるので、手の奥行きは実際より小さく見える。
一方先に述べたように手の幅方向は遠近法により通常より大きく見えるはずだ。すると私がよくやるミスなのだが、本来より幅広くしなければいけない手のひらを短くなった手の長さに合わせて狭くしてしまうのだ。
だから結果的にとても手の小さい人物画が出来てしまうのだ。
■魅力的な手のデッサンはどうやって描く?
さてここでクイズだ。上の肖像画にある手は誰のものだろうか?簡単すぎて「常識だ!」と叱られるかもしれない。
そう左側は有名なレオナルド・ダ・ビンチのモナ・リザ。右側は私が思春期の頃、美術の教科書で見てあこがれ、今日人物画を描くきっかけとなったルノワールのイレーヌ嬢の肖像だ(「私の人物画が売れた訳は…→」を参照)。
私の経験に基づいて言えば、初心者がこだわるのはモナリザやイレーヌのような手全体はもちろんその指の形や表情だろう。
だからつい細かな手と指のラインをみてしまう。だがそれだけに執着しすぎると、指の曲線だけを追いかけることになる。だから相当に人物画が描ける人でも手に限って言えば、アニメのキャラクターの手のようになってしまうのだ。そういう目で自分の絵をもう一度見直してほしい。
絵画としての「手」に必要なことは手のひらの物理的な厚みを実直に表現することなのだ。簡単に言えば、箱状の手のひらに棒状の指が付いているという無骨なモデルを意識することが一番大切なのだと思う。
■指のディテールを極めるには?
やっと魅力的な女性の手の表現するところまで話が進んだ。ただこの段階の話は世の中にいくらでも参考になる本がある。詳細はそちらに譲るとして、このブログでは女性の手と指を描く大原則だけ述べておこう。
まず指の長さについて。私自身の手を測ってみると、掌の長さは10cmあるのに対して中指は7.5cmしかない。2.5cmも短く、指は掌の3/4しかないことになる(もちろん私は通常の男性よりも少々手のひらが広く、指が短いのだろうが)。
それに対して一般的な女性の指は掌と中指の長さはほぼ同じだと言われている。この比率を守ることが女性らしい手を描く大原則だ(もちろん手の角度による見え方を考慮して)。
もう一点は手の甲に並ぶ指の第一関節から第二関節までの寸法と第二関節から第三関節を含む指の先端までの寸法がほぼ同じという原則だ。
個人的には人差し指から小指までの各第二関節が並ぶラインを手全体の中でバランスよく、正確に描けるかが手のデッサンのポイントだと思っている。
P.S.
このブログには文中でリンクを貼った以外にも以下のような関連記事を書いている。興味ある方は参照してほしい。
■カテゴリ
■人物画の描き方
- 「人物画の基礎クロッキーの道具と描き方→」
- 「鉛筆デッサンが教えてくれるもの→」
- 「デッサン練習中!それでも上達しない理由は?→」
- 「石膏デッサンを練習する意味とは?→」
- 「素描をデッサンだけで終わらせない!私の人物画作法とは→」
- 「顔のデッサン3つの教訓!なぜ似ない?→」
P.P.S.
私のアドバイスは以上だが、実は今回のようなテーマについては、本当はもっと実際のデッサンを元に説明できればよかった思っている。
そしてこのブログのトップページ(「美緑(みりょく)空間へようこそ!→」を参照)で「美緑空間アートギャラリー」への参加をお願いしているが、このサークル活動が有効に利用できるのではないかと考えている。
例えばあなたがもし自分の描いた「手のデッサン」についての評価を聞きたいと思うのであれば、このサークルに参加して、私のコメントを求めてもいい。
あるいはさらに他のメンバーに実例として作品を提供していただけるのであれば、作品は匿名にするとしても、メンバー全体の絵画技術向上に役立つコメントを私から発信できる。
もちろん私の厳しい友人のように自分で絵は描かなくても手についてこだわりの意見を言ってくれてもいい。
こんな活動がしたい人は、是非「美緑空間アートギャラリー」に参加してほしいと思う。登録方法は下のメール欄にあなたのアドレスを入れて登録ボタンを押すだけ。あなたの参加をお待ちしている。
[…] さてモデルさんを前にした制作は前段階で終了したわけだが、透明水彩で仕上げに入るにはやはりもう少し、細かな部分に手を入れたい。 このモデルさんは最後に写真を許可してくれたので、残りは写真を下に制作する。 最後の段階のテーマは画面全体の魅力作りだ。 まず、表情だ。いままで敢えて顔の細かな描き込み、表情については触れなかった。最初から顔にこだわると、眼が近視眼的になり全体のバランスが狂いやすくなるからだ。 でもこの段階では存分に描き込んでいい。目が魅力的なモデルさんだったので、目元を明確に描いた。といってもアイラインを濃くするわけではない。 目の上下に注目して欲しい。まぶたの内にある眼球全体を意識しながら影を入れていくのだ。ここをきちんと描くだけで表情はぐっと引き締まる。 次に大事なのは口元だ。ここも単に唇の外形線を濃くするわけではない。ポイントは、唇は顎骨の曲面に沿ってついていることと、上唇は下唇に比べて想像以上に暗いということだ。そしてこれを外形線ではなく面の影で表現することだ。 なお顔のデッサンについて、初心者が陥りやすい注意点(詳細はこちら→)を別にまとめてあるので参考にしてほしい。 次に手のデッサン。こちらも別に初心者用の注意点(詳細はこちら→)をまとめてあるので参考にしてほしい。 そして髪の毛。初心者は髪の流れの方向に単純に線を重ねることが多いが、その描き方では全体が濃くなるだけで、髪のボリューム感や艶は出ない。 私は明るい部分はばっさりと練りゴムで消し、白っぽいままにしてあまり線を重ねない。というのは水彩で表情を付けたほうが豊かな表現が可能だからだ。そして濃い部分はあまり濃すぎる鉛筆を使わず、髪の毛の流れる方向とは違う方向にハッチングを入れることにしている。こうすると明暗で髪のボリューム感が表現できると同時に、影の部分でも真っ黒にならないため、後の透明水彩による色での表現が可能になるからだ。 帽子や服の細かな皺と背景はほぼ同時に進めることにしている。 何故なら画面全体の魅力を考えたとき、背景の明度と服の明度の関係はとても大切だからだ。 つまりバックに溶け込むような部分とバックから浮き出るような部分の表現の差は実はバックの明度と皺などの細かな明暗表現の対比が決め手になると思っている。 […]
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