「山河」への想い
私の生まれ故郷は岐阜である。木曽川、揖斐川、長良川の三大河川がまとまって海に注ぐ濃尾平野にある。扇状地であるため、岐阜市の大部分は標高10mそこそこだと聞いている。
だが実は岐阜県は海に面していない。山国なのだ。だから一番高く急峻な山でも338メートル(今はもう少し高いらしい)の金華山、山の麓に流れる一級河川長良川でもその川幅はせいぜい30メートル、穏やかで小ぶりな自然なのだ。
驚愕の風景
そんな私の子供のころからの「山」と「川」の原風景を一変させたのが「桜島」だった。
絵描きを目指して、再び風景画を描き始めたものの、関西の風景ばかりを描くのに少々飽きてきた。たまには遠いところでスケッチしたいと、とりあえず本州最南端の鹿児島県を選んだわけだ。
開通間もない九州新幹線で新神戸から鹿児島まで約4時間の旅。実を言うと鹿児島にそれほど期待していたわけでなかった。
だが初めて目にした桜島は十二分に魅力的だった。
もちろん、海に浮かぶ活火山で、いつ噴火するかわからないとか、通りいっぺんの知識はあった。だが「知っている」ことと実物をこの目で「見る」ことは全く違うのだと改めて思い知らされた。
何しろ、まず山が緑色じゃない。 表面はゴツゴツとした岩だらけ。そして地肌はその名の由来のように桜の花びらののように赤い。
岩の切っ先が空に描き出す鋭い稜線の形は奇抜で、頂は白煙を吹いている。 先に述べた私の山のイメージと全く違うのだ。
しかもその海抜1,117mの巨大な岩の塊が緑の大海から唐突に突き出ているのだ。その姿は美しいというより神々しいと言うべきだろう。
どこから見たらいい?
桜島は鹿児島市内ほとんどどこからでも見える。ベストショットは観光名所である旧薩摩藩島津家別邸「仙厳院」の庭園から見る桜島だそうだ。
当然この機会にと、私も訪れた。だが庭園越しに見る風景は本来「借景」であるはず。主体はあくまで庭園なのだ。
しかし目に映るのが「桜島」では、相手が悪すぎた。その圧倒的な存在感の前には、棟梁の意匠も、庭師の精妙な手入れもかすんでしまう。
だから私の記憶に「庭園」は全く残っていない。というわけでどうせならと、この絵は港から桜島だけを見つめて描いたものだ。
桜島の描き方は?
絵の技術的な解説をしておこう。このブログを何度か見ていただいた方なら一見して、私のいつもの水彩画と違うことが分かるだろう。(「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」を参照)
まず描くべき対象の下書き、輪郭にペンを使っていない。鉛筆だ。何故だかお分かりだろうか?
実はこの絵の他にペンで桜島を描いた絵が2枚ある。だが、それらはペンで描いた山の稜線が目立ちすぎて、山の全体的な質感、存在感がでないのだ。
ならばと、稜線を細くかすれるようなタッチで描くと、シャープで個性的な桜島のラインの面白さが出ない。
そこでこの絵では線は全て鉛筆で下書きをしている。ただし、この鉛筆の線は形を取るためのものではない。あくまで桜島のボリュームを表現するために使っている。だから技法としては、鉛筆による石膏デッサンに近い。鉛筆だけで、形、明暗で存在感を表現した後、山肌、海、麓の緑に色を入れた。
本来なら空は一番明るい部分なので、鉛筆線を入れずに色だけを塗ってもいいのだが、今回のテーマには頂の白煙の表現が重要だ。
そのため敢えて空の全面に鉛筆でクロスハッチングを入れた。空を若干暗くすることにより、白煙の白さを強調したわけだ。
そして山の「桜色」を強調するために、海は濃い目のコバルトブルーとウィンザーバイオレットをたっぷりと使っている。
絵のサイズはいつものSM(サムホール)。しかし桜島の雄大さを表現するなら、その時持っていた最大サイズ6号のスケッチブックに描くべきだった。少し反省している。
千厳院も是非…
最後に借景の庭園は別として、千厳院は絵の題材としての素晴らしい。写真を添えておくので皆さんも是非ここでスケッチしてほしい。
P.S.
水彩画の基本的な色の塗り方については「水彩画入門 色塗りの基礎技法を覚えよう!→」を参照してほしい。
今回、スケッチ先を選ぶにあたり、「とりあえず本州最南端!」で選んだと書いた。だが、今後の予定を立てるためにも、今まで行ったスケッチ先をきちんと記録しておこうとリスト化することにした。私の感想も記し「ここを描きたい日本の風景!→」という記事にまとめた。スケッチ旅を計画している人は参考にしてもらうとよいと思う。
その他にもこのブログでは関連する以下の記事を書いている。興味のある人は参考にしてほしい。
- カテゴリ
- 風景画については
- スケッチ旅について
[…] 鹿児島市内 […]
[…] 私がペンでなく、鉛筆で下描きをするときは、ちゃんとその理由がある。ペンの鋭い線よりも柔らかい鉛筆の線の方が絵の雰囲気に合うと思う時だ。その場合、鉛筆の使い方には実は二つの方法がある。 一つ目は、私の人物画の作法の延長だ(詳細はこちら→)。鉛筆は「線」でなく「面」として使う。つまり4Hから4Bまでの濃さの違うの鉛筆を使い分け、風景の微妙な明暗、材質をモノトーンで細かく描き分ける方法だ。 この方法は当然ながら透明水彩を塗る以前の鉛筆だけのプロセスに相当時間をかけないといけない。はっきり言って初心者向きとは言い難い。(もし、この鉛筆使用法に興味のある方は「姫路城の桜(詳細はこちら→)」や「鉛筆と透明水彩で描く風景、海に浮かぶ桜島(詳細はこちら→)」の記事を参照してほしい) だから今回のように、淡彩スケッチで使用する場合はもう一つの「柔らかい鉛筆の線をモチーフの輪郭線としてそのまま活かす」方法を使う。 この時は線にある程度の個性がないと絵に面白味が出ない。だから鉛筆は出来るだけ濃く、太めの芯先のものがいい。私は1.3mmのシャープペンシルを使用することが多い。 […]