模写をすると絵は上達する!?

クールベの海の絵

絵の初心者の練習とは?

 冒頭の絵はクールベの描いた海の絵である。
 油絵を描いたことのある人なら大抵の人は知っているだろう。実は私にとってもこの絵はとても思い出深い。

 水彩画でも油絵でも構わない。絵を描き始めた初心者から、「お薦めの練習方法はありますか?」と聞かれると、大抵の場合「デッサン」あるいは「クロッキー」と答えるだろう。
 このブログでも、「誰にでもできるデッサン練習法→」「人物画の基礎クロッキーの道具と描き方→」などの記事を書いている。

 しかし最近フェイスブックである作家が、自分の若い時に描いた模写をアップしていた。
 それを見て気づいた。そうか「模写」があったかと。

模写のメリットとは?

 私自身はデッサンもクロッキーも好きなのだが、普通の初心者はそうではない。
 なぜならモチーフやモデルの段取りも大変だし、何より出来上がりに、目に見える楽しみがあまりない。
 仮にいかに会心の作ができたからと言って、自分の描いた「石膏デッサン」をリビングルームに飾ろうとは思わないだろう。

 その点、模写ならばモチーフを段取りする手間がいらない。何より自分の最も好きな絵が描ける。そして出来栄えが良ければ早速リビングルームに飾ったらいいのだ。

模写はあなたの悩みを解決してくれる!?

 少し私の体験談を語ろう。
 学生の頃、美術部で必死になって油絵を描いていた(プロフィール、「油絵に熱中した青春時代→」参照)。最初は風景画が多かった。
 だが、油絵の初心者は大抵そうなのだが、鮮やかな色を使えることに夢中になるあまり、どうしても画面に統一感が出ない。

   そんな私のちょっとした苦悩を感じてくれていたのかどうかはわからない。ある時大学の美術部の先輩がアドバイスしてくれた。

 「模写してみたら?」

 その先輩は子供のころから油絵を習っていたらしく、人物画が上手だった。今でも記憶に残っているが構図も色彩も筆のタッチも自己流でない「正統的?」な絵だった。

 当時の私はとても生意気で、先輩の言うことなど全く聞く耳を持たなかった。
 だが自分の絵にしっくりきていないのは事実で、たぶんやはり正しい描き方が必要だと思ったのだろう。

 この時は素直に先輩のアドバイスに従った。

 そして初めて描いた模写が冒頭のクールベの「海の絵」だったのだ。
 襲いかかるような波と飛沫の不思議な形。それらに青、緑、白が絶妙に重なるそのテクニックに感動したことを覚えている。

 クールベはいわゆるバルビゾン派と言われる画家の一人だ。私が好きなコローもこのバルビゾン派の画家だ。
 彼らは基本的にチューブから出したままの生の絵具を使わない。パレットの上で混ぜた独自の色を塗り、自分の色調を作り出している。

 その点でだけをとらえれば後の印象派よりも古典絵画に近い。だがルネサンス以前の絵画が神話の世界を落ち着いた褐色の背景でまとめ上げるのに対して、自分の目で見た自然の感動をそのまま描こうとする。そして独自の抒情的な色調を作り出す。

 私は彼らの作品の解説をしようとしているのではない。この海の絵を自分で模写してみて初めて彼らの考えていたこと、試みようとしていたことが実感できたということが言いたいのだ。

模写だってあなたの作品だ!

 正直言って当然、本物の絵通りに描けたはずがない。だが「何故だろう」と考え始めた時から、人は必ず進歩すると信じている。

 少なくとも私はこの時以来、先に述べたような、チューブから出した生の絵具が画面のあちこちで勝手に自己主張するような絵を描くことはなくなった。もっぱら水彩画を描くようになった今でもバルビゾン派の色彩はいまだに私の画面に影響を与えていると言っていい。

 もちろん誰もが私と同じことを学ぶとは限らない。人によっては逆かもしれない。
 例えば彩度を抑えた暗い絵ばかり描く人が、現代絵画、抽象画を模写することによって、最先端の抽象絵画理論と原色のコントロール法を身につけるかもしれない。それもまた素晴らしい。リビングルームに飾る絵がまた一枚増えるのだから。

 絵は描き始めた・・・でも、なかなか自分の目指す絵にならないと思っている人に声をかけてあげたい。

「模写してみたら?」

P.S.
このブログの参考記事は以下の通り。興味のある方は参考にしてほしい。


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2件のコメント

[…]  誰に強制されるわけでなく、個性を発揮でき、自分の好きな画風の絵を世界中の人に売って生活する。これができれば最高だ。そんな「独学」の理想を描きつつ、現実にするべきことを確認してみよう。 ①正しい基礎知識を得る方法 いかに「独学」と言っても全く何もなし、徒手空拳で描き始めることは無謀だ。時間の無駄である。 まずは基礎的な教本を買えばいい。どれを選んでもそれほど違いはない。ただやはり新しい方がいい。私が学生の頃買った本を読むと、「練習、経験」の大切さを説くのみで、論理的な知識吸収方法や実際の練習方法について書かれていない。今読めば物足りないと思うことも多い。 インターネットが発達した現在、ITスキルとそれなりのコストをかければ、正しい、一次情報に早く到達できるようになった。だからこれは一人でも十分学べると思っている。 ②自分だけの表現とテクニックを磨く方法 以前に初心者は自分の好きな画家の作品を模写するといい(詳細はこちら→)と書いた。だが絵を購入してもらおうと思うと、やはり個性が必要だ。 あなたの模写がいかに上手くても、原画から直接作られた複製画には絶対に勝てない。 通常なら、そのためには「失敗を経験すること」と書くだろう。だが「独学」の場合はそれだけでは足りない。何故ならきちんと美大を出た人はすでに多くの失敗を経験し、あるいは教えられているからだ。 私は彼、彼女たちに負けない絵を描くために必要なのは「失敗を予測できる」ことだと思っている。 つまり「試行錯誤」を減らし「理屈通り」の絵を描けるようになることだ。具体的には「失敗した!」と思ったときにそのままにしないこと。 例えば一度描きおわって額に入れ、やはり気に入らなかったとする。水分の多い少ない、絵具の透明度の選択間違い、あるいは根本的に水彩紙の選択間違いがあったのかもしれない。 私はそんな時、まずその原因を考える。そしてそれを発見したら、修正方法を考え、迷わずその絵の上に筆を重ねる。 その実例を「誰にでもできる水彩画上達法(詳細はこちら→)」の中でかいているので参考にして欲しい。 私が買った大昔の教本に「水彩は出会った時の感動の表現だ。決して後から手を入れてはいけない」という文章があった。ちょっと詩的だが、わからなくはない。だが、短時間で上達しなければならない「独学派」にはこの言葉は似合わないと思っている。 ③人脈不足を補う方法。 独学で頑張って、いい絵が描けたとする。でも自己満足しているだけではもったいない。トップページで書いたようにこの美緑空間の基本コンセプトは「世界中の人にアートのある生活」を提供することだ。だから作品を多くの人に見てもらい、購入してもらいたい。 こんな時、画廊の世界、画商の世界に人脈のない「独学派」はやはり不利だ。ではどうしたらいいのだろう。 おそらく答えは「インターネット」だろう。この世界、例えばユーチューバーの中には何の人脈もなくとも、莫大な収入を得ている人がいることは周知の事実だ。 私は残念ながら、今のところこの世界にそれほど詳しくはない。トップページで同じ志を持つ「独学派」と言える人たちに「美緑空間アートギャラリー」への参加を呼びかけているが(現在はスステム構築中)、これもこの活動の一環だ。協力してくれる人が少しでも多くいると嬉しい。 […]

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