吹屋という町
岡山県高梁市の吹屋(ふきや)という村にスケッチ旅に来た。JRの備中高梁駅からバスで1時間以上揺られてやっと到着という、とんでもない田舎町だ。
私のお目当ては、「重要伝統的建造物群保存地区」である「ベンガラ色の町並み」だ。この町が重要伝統的建造物群保存地区に指定されたのは昭和52年である。第一回の選定が京都産寧坂や岐阜県白川郷(「ペンと水彩でスケッチ!白川郷合掌造り→」を)、秋田県角館(「水彩で描くみちのくの風景 角館の武家屋敷秋田県角館→」を参照)などが選ばれた昭和51年なので2回目に選定された、いわば由緒ある町並みということになる。
「赤色」の秘密
上の写真をみてほしい。町が何故赤いのか。江戸時代に奇抜なことを考える建築家がいたわけではない。赤い屋根は地元の粘土を使った「石州瓦」。外壁の板材、建具、格子に至るまで塗り込めた赤はこの町の名産である「ベンガラ」を使用したからだだ。
その土地の材料だけで素直に作るとこんな町が出来たというわけだ。町が栄えた理由は江戸時代に遡る。当時インドのベンガル地方から輸入していたため「ベンガラ」と呼ばれた高価なこの材料が、吹屋の銅生産の副産物としてできることがわかった。
時の聡明な有力者がこのベンガラの商品化を図った。吹屋のベンガラはたいそう品質が良く、瞬く間に日本中で大ヒットしたらしい。
こんな僻地にもかかわらず、豪商らしき邸宅が並ぶ、大きな町が昭和の初期まで維持できたのもこのベンガラのおかげだった。
しかし、以前このブログでも触れたが、「絵具」「顔料」の類は天然に取れるものはとても高価で、工業的に合成された製品にコストも品質も及ばない。(「絵具の知識 透明水彩は何故美しい?→」)しかも肝心の銅山は昭和47年に閉鎖されてしまった。山間で他に産業もない町が寂れるのは必然なのだ。
吹屋の町並みの魅力とは
冒頭の水彩スケッチの説明をしておこう。町並みは一見、美しいが手入れの行き届いていない、廃屋に近いものもある。「ベンガラ色」も色あせ、褐色に近いものもある。
それでも絵描きの目で見ると、この町には他の町にない魅力がある。それは平入と妻入りが混在する珍しい町並みである上に、山道に沿って民家が並ぶのでうねるような高低差が軒のラインと屋根のスカイラインに現れることだ。
静的な佇まいが多い一般的な日本の町並みに比べてとてもダイナミックなのだ。だから絵としての構図はとても気に入っている。
ベンガラ色の町を描く方法
次に色彩だ。町は確かに「赤い」が、水彩画として真赤に塗るわけにはいかない。先に述べたように、実際は風化した褐色に近い色も多いからだ。
だからこの絵ではいつものようにグリザイユ画法を使い、下地にプルシャンブルーで影をつけ、さらにベンガラの彩度の落ちる部分にもプルシャンブルーを入れている。
上に重ねる赤はクリムソンレーキとバーミリオンだ。両方とも単独で使用すると彩度が高すぎて風景画には使いづらい色だが、このように下地にブルー系を塗っておくと、ちょうどいい味が出るようだ。
なお、私の風景画の基本的な描き方については、「ペンと水彩で描く風景画の魅力とは→」を、グリザイユ画法と絵具の透明度については「水彩画の基本!知っておきたいグリザイユ画法と絵具の透明度→」を参考にしてほしい。
その他の観光施設
その他、見どころとして「吹屋小学校がある」。現役として使用されている日本最古の木造小学校だそうだ。建築デザインも素晴らしい。こちらも是非覗いて見てほしい。
昭和52年に重要伝統的建造物群保存地区に指定されてからは、どうやら観光がこの町の主要産業になったようだ。村に一見だけあるホテルもなかなか繁盛しているようだった。この美しい村、なんとかこれからも生き延びてほしいと思う。
P.S.
「平入り」と「妻入り」について
「平入り」とは切り妻屋根の軒方向から入る形式、「妻入り」とは軒と直行方向、三角形が見える側から入る形式のこと。全国的には平入の町並みが多い。妻入りはこのブログで取り上げた篠山市河原町の商家群(「水彩で描く夕日の風景 丹波篠山の武家屋敷→」を参照)など少数派だ。
P.P.S.
このブログでは文中にリンクを張った他にもにも以下のような関連記事を書いている。興味のある人は参照してほしい。
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