桜のピンク色はどうやって作る?

あなたのパレットを見てほしい

 よく使う色、減りの早い絵具はどれで、使わない色はどれだろう。

 風景画をよく描く人は空の「青」や森の「緑」は必須だろう。木を描くには茶色も必要だ。緑には黄色も混色するだろう。だが多分赤色はあまり減っていないだろう。
 私のパレットも例外ではない。何故だろう。多分…自然界には一面の赤色、あるいはピンク色は見られないからだ。

 だが実は一年に一回だけ大量に赤を使う時がある。それは「桜」の風景を描く時である。

 桜の花は何色かと問われれば「淡いピンク!」と答えるだろう。だが実はピンクは12色環には存在しない。つまり赤、青、黄の三原色を混ぜて作ることはできない色なのだ。

 ではどうやって作るのか。油絵ならばクレムソーンレークにホワイトを混ぜればよい。だが水彩でそんなことをしたら透明感は無くなってしまう。透明水彩のみずみずしい表現は失われてしまうのだ(「水彩画の基本!知っておきたいグリザイユ画法と絵画の透明度→」を参照)。

 ではどうするか。
 赤色を水で薄めて作るのだ。簡単といえば簡単なのだが実はこれが難しい。特に淡い桜のピンクは混色すると濁るの、できる限り単色をそのまま水で薄めて桜色として使いたい。
 ならば一体どの赤絵具が桜のピンクにふさわしいのだろうか?

 今回はそんな水彩の「赤色」絵具で理想の桜色を作る方法を考えたいと思う。

目次

  • 水彩の「赤色」絵具にはどんな種類がある?
  • 赤色絵具の色相と彩度をチェックする
  • 赤色絵具の透明度をチェックする
  • 桜色を塗り分ける秘訣とは

水彩の「赤色」絵具にはどんな種類がある?

 私のパレットにある赤絵具は冒頭の写真にある6色である。右上から反時計周りでカドミウムレッド、ローズドーレ、スカーレットレッド、ローズマダー、パーマネントローズ、アリザリンクリムソンである。 スカーレットレッドだけはシュミンケホラダム、あとはウィンザーニュートンだ。(「透明水彩入門! 絵具とパレットの使い方を知っている?」を参照)

赤色絵具の色相と彩度をチェックする

 はるか昔、12色の固形絵具セットを使って桜の風景を描いたことがある(「桜の絵はむつかしい?→」を参照)。

 そのセットにあったただ一色の赤がクリムソンレークである。おそらくどのメーカーの水彩セットにもある代表的な「赤色」である。その時はそれを水で薄めて桜の花を塗ったが、残念ながら色そのものがちょっと赤すぎると感じた記憶がある。

 そこで今回はそんな過去のあいまいな記憶は捨てて、厳密に赤色を比較しようと思う。
 まず私の愛用の6色を比較しよう。最も鮮やかで「真紅」に近いと感じるのは下段中央の「パーマネントローズ」だった。その左ローズマダーはやや白っぽく、右のアリザリンクリムソンはやや黒っぽい。

 それに対して上段の三色はいずれも赤にやや黄色が入りオレンジ寄りの赤である。左からスカーレットレッド、ローズドーレ、カドミウムレッドの順でオレンジに近くなる。一番彩度が高いのはスカーレットレッド、次がカドミウムレッドでローズドーレはやや白っぽい。

 上下2段の傾向を比較すると、いかに水で薄めて使うとはいえ、桜色としてはやはり下段は赤すぎる。単独の色として使うなら桜というよりバラの花向きの色だろう。その昔桜色に使ったクリムソンはどんなに水に薄めてもやはり桜の「ピンク」とは違うと思ったのは正しかったのだ。

 淡いピンクの桜色にふさわしいのは、たっぷり水で薄めたスカーレットレッドあるいはローズドーレであろう。

赤色絵具の透明度をチェックする

 だが水彩絵具は色味だけでは使えない。透明度を考慮しないと思うような絵は描けないことはすでに述べた通りだ。(「水彩画の基本!知っておきたいグリザイユ画法と絵具の透明度→」を参照)
つまり下地の色と重ねることによってより桜色に近くなるのはどれかということである。

 そこでまず上下を濃く、中央にかけて紙の白を残すようにブルーの下地を塗った水彩紙を用意する。水を引いたその水彩紙に水をたっぷり含んだ筆で先の赤6色を垂らした状態が上図である。

 厳密に絵具の量を図って垂らしたわけではないので、各色まったく同条件とは言い難いが、それでもとても貴重な結果が得られたと思っている。以下に概略結果を示そう。

 まず見てほしいのは、水で薄めたピンクの部分だ。通常透明水彩は水で薄めれば下に塗った色が上の色と重なって見えてくる。今回は下地の青の上に赤を重ねている。だから原則的には水で薄まるにつれて、あるいは絵具の透明度が増すにつれて赤→紫→青に見えるはずだ。

 一番透明感ある典型的な赤色はパーマネントローズだ。同心円状に赤→紫→青が見える。それに対して、上段のスカーレットレッドとカドミウムレッドは周辺部の薄い部分でも青は見えずほとんど白っぽくなってしまう。

 実はこの事実は予測されたことでもある。何故なら赤は黄色などに比べると一般に透明度が高い絵具が多い。今回の6色のうち4色はメーカーで表示する「透明色」だが、スカーレットレッドは半不透明色、カドミウムレッドは不透明色である。

 直感的には考えにくい明るい黄色っぽい赤が暗い「下地の青色」を消してしまう現象はこの2色が透明水彩では希少な不透明であることによる。

桜色を塗り分ける秘訣とは

 今回の実験結果には私自身とても満足している。
 結論を言おう。桜の淡いピンク色は表現するにはローズドーレとスカーレットレッドを塗り分けることだ。

 「塗り分ける」方法を説明しよう。
 ローズドーレは透明度が極めて高い。だからその美しいピンク色を引き出すには下地の明るさが決め手だ。

 一方スカーレットレッドは水分の多少により鮮やかさに相当の差がある。濃く塗るとあまりにも鮮やかで桜色には見えない。だが相当量の水で薄めると実にいいピンクになる。しかし不透明なので下の色はほとんど消してしまう。透明水彩の良さをある意味消してしまう色だともいえよう。

 もっともそれは必ずしも悪いことではない。グリザイユ画法を使う時など下地に陰色として青や紫を使うことがよくある。ところが桜のような淡い色を上に重ねると「青」が強すぎると感じる時がある。

 そんな時は、ローズドーレではなくスカーレットレッドを使えばいい。水で薄めて淡いピンク色にしても下地の青を弱めてくれる。その後の色調整がしやすいのだ。

 ピンクは「赤色」を水で薄めるだけ…だがその表現技術は奥深いものがある。みなさんも来年の桜を描くときにこの記事を思い出してほしい。きっと役に立つはずだ。

P.S.
 このブログでは文中にリンクを貼った以外にも、以下のような関連記事を書いている。興味のある方は参照してほしい。

■カテゴリとしては

■桜の絵については

■水彩画の基礎については

■風景画が好きな人へ

P.S.
さらに水彩画を学びたいあなたへ
この記事は「ピンク色」だけを語っている。きっと手っ取り早く描きたいという人には不満だろう。
でも逆に言えば、少し論理的な研究をし、そして皆でそれを共有すれば、わかりやすい効果的なテクニックを簡単に知ることができるということだ。

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