デッサンに自信がないという人へ。どんな練習をしてますか?
大半の人が「デッサンだけの練習なんてしていない」と答えるのではなかろうか?
特に「絵が好き。でも自分で描くのはちょっと・・・」という人。この人たちは「失敗したらどうしよう」という気持ちが隠れているようだ。
だから人物のデッサンをしても、風景のスケッチに出かけても消しゴムを手放さない。ちょっと失敗するとすぐに消しゴムで消してしまう。だからそもそも練習にならないのだ。
そうはいっても人前で絵を描くなんていう行為は何年もしていない人にとって自信の無いデッサンを見せることに抵抗があるのだろう。ならばどうしたらいい?
もちろん毎日時間をとってアトリエに向かえばいい。でも画家でもない普通の人にはそんな時間があるはずがないだろう。まとまった特定の練習時間を設けずに、たくさんの(1日一枚を目標としよう)デッサンを練習する。実はそんな都合の良い方法があるのだ。
それを説明する前に、「デッサン」の定義をしておこう。曖昧な理解は誤解を生んでしまうからだ。
ここでいうデッサンとは「線」で「対象の」視覚的特徴を表現することだ。だから着色による効果は考えないし、画面構成の良し悪しも評価しない。逆に対象の種類は限定しない。人物、静物、風景等何でもいいこととする。
今定義した「デッサン」を練習する一番いい方法は、毎日アトリエにこもることではなく、
「あなたの日常をアトリエに変える」ことだ。
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つまり、朝起きてから仕事にゆき、眠るまでの空間をアトリエにすれば良い。日常生活の中で気になったシーンをすぐ記すクセをつけるのだ。
仕事をサボれといっているわけではない。当然、あるページには仕事のメモがある。しかしそれ以外のページには、あなたの日常があふれているようにするのだ。
上のクロッキー帳はすべて私の過去の日常の一ページだ。ビジネスの記録はさすがにここに出せないが、それ以外のシーンをちょっと取り出していみた。参考になると思う。
①図は若いころ、友人に子供が生まれ、遊びに行ったときにその子供をスケッチしたものだ。この子も今は結婚して子供がいる。([これも基礎練習?動く子供をスケッチ!→」を参照)
②図は神戸ジャズフェスティバルに出かけた時のスケッチだ。ベースを弾く演者がかっこよかったな。(「ジャズライブの魅力をスケッチ!→」を参照)
③図は若いころ、設計のコンペに自主応募しようかと帰りの電車内でスケッチしていたものだ。結局仕事が忙しくてコンペには出せなかったが。(「クロッキー帳に何を描く?→」をを参照)
④図は仕事が終わって、絵の好きな仲間が集まるクロッキー会に出かけた時のもの。仕事に大きなクロッキー帳をもって出かけるのは気が引けるが、会社のノートがこのクロッキー帳なのだから、便利なことこの上ない。
⑤図はプライベートで旅行に行ったときの宿泊したホテルの部屋をスケッチしたもの。当時ホテルを設計していたということと、河童さんのイラストがいいなと思い結構まねて練習していたのだ。(「イラストのコツ教えます→」を参照)
⑥図は仕事が終わったあと、建築主の接待に付き合って出かけた銀座のクラブの歌手のクロッキー。バブルのころの思い出だ。
⑦図は帰りの電車で正面に座って眠っていた男性のスケッチ。「終電車の風景」だ。
⑧図は上海に出張したときのスケッチ。すべての仕事を終え、帰りの飛行機に乗る前の空き時間を利用して焦って描いたものだ。
(「淡彩スケッチで描く風景 上海の熱い夏→」を参照)
道具選びと心構えのコツ
まずは紙を選ぼう。常に持ち運ぶためには小さく、軽く、丈夫で持ちやすく、ページが大量にあるほうがいい。いや先にダメなものを言っておこう。
×罫線の入ったビジネス用ノート
・・・罫線は自由な発想を妨げる。打合せ記録は書けても絵は描けない。
×スケッチブック
・・・紙質が厚いので、失敗を恐れてしまう。表面に凹凸があるので、素早く線を引くときに引っ掛かりを感じる。またリング閉じのものが多いが、鉄線のエッジが切りっぱなしのものが多く、長く使っていると、ポケットや鞄の布を傷める。
×高価な、おしゃれな表紙の無地ノート
・・・失敗するのが惜しくなるような高級品は不要、むしろ邪魔である。
×安物の裏表紙の薄い無地ノート
・・・実は裏表紙はとても大事だ。屋外で立ったまま描くこともある。裏表紙がしっかりしていないと、紙面が曲がって描きにくい。
私のお薦めはマルマンのクロッキー帳だ
メリットを挙げると、裏表紙が硬く、デッサンする時、紙面が曲がりにくい。紙質は薄く、めくりやすく、大量に閉じてあるので失敗することを恐れずに住む。色はアイボリーで屋外で使用する時も目に優しい。リング部分に工夫があり、エッジが安心、紙も長持ちするなどなど・・・。
大きさはその人の日常によるが、いつも手ぶらで歩く人、あるいは小さなポシェットくらいしか持たない人はミニサイズ(タテ86mm×128mm)がいいだろう。最悪はポケットに入れて持ち運べるだろう。鞄を常に持ち歩くビジネスマン、ウーマンならA4サイズくらいが機能的だ。
次に必要なのは書く道具
クロッキーやデッサンのことだけを考えれば濃い鉛筆、ダーマトグラフなどがいい。 しかしこれらは一般に太く、濃い。しかも筆圧によってそれらが変化する。早く、正確に、細かな文字を書く必要のあるビジネスシーンでは使いにくく、現実的ではない。
一方、 皆さんが通常仕事で使う筆記用具は、通常はシャープペンシルが多いだろう。 芯の太さは0.5mm、硬さはHまたはHBくらいだろうか、文字を書くのには最適だ。
しかし実はこのシャープペンシルは、短時間のデッサン練習用としてはよろしくない。なぜなら線が細く、一定で強弱の表現できない。特にH程度では濃い部分の表現に限界があるからだ。
どうしてもシャープペンシルが使いたいなら、画材店に行って1.3mmの芯太さのものを買うと良い。私はオーストリア製「ARISTO 3fit」を愛用している。ただしこの場合ビジネスで文字を書くにはやや太すぎることを覚悟しなければいけない。
私がお奨めするのは サインペン だ。太さは0.3mmが文字も絵も描けてちょうどよい気がする。クロッキー帳は紙が薄いので文字が裏に透けてしまう油性よりも水性のペンが良い。
サインペンは濃く、筆圧やスピードによってある程度の強弱、又は重ねによる強弱が表現でき、ペン先の太さが安定しているので文字を書くにも都合が良い。クロッキー帳に描く場合はメーカーはどこでも大差ないだろう。水彩紙に使う場合は、メーカーによりかなり癖があり、注意が必要だ(「水彩画で使うペン!あなたならどれを選ぶ?→」を参照)。
心構え
一つは、この日常をアトリエにする時だけは、「構図」は忘れていいということ。本来「構図」は絵を描く時一番重要と言ってもいい。通常の絵画教室では常に「大きな絵」を描きなさいと指導するが、それは構図の重要性を学ぶためでもある。
しかしそもそも今あなたがポケットから取り出したクロッキ帳はとても小さい。構図など気にすることさえ時間の無駄だ。気になったものを真ん中に、素早く描けばよい。
このクロッキー帳をあとで見直すと、自分の進化の歩みが見られてなかなか興味深い。私の最初の個展の時、このクロッキー帳の一部を展示したら、お客様が非常に興味を持ってくれた。おそらくスケッチの出来栄えに感心したわけではない。 「日常をアトリエに」というスタンスに好感をもってくれたのだと理解している。
もう一つは消しゴム(練りゴム)を使わないことだ。私が鉛筆よりも、ペンを使うことを勧めるのも「消せない」ということが大きな理由だ。もちろん通常の鉛筆、木炭デッサンにおいては「消す」行為は「白い線」を引く行為であり、重要なことだ(「鉛筆画の消す技術と道具→」を参照)。
だが、先に初心者は間違えることを恐れると書いた。それを克服するためには、練習時には消しゴムを捨てることだ。じゃあ失敗したらどうするのか。簡単だ。構わず上に正しいと思う線を重ねれば良い。
失敗した線を残すメリット
一つは自分の癖を知ることができること。例えば私の場合、人体に対して顔を実際より小さく描きがちだ。そして顔に対して口の位置は実際より下に、かつ小さく描いてしまう。肩幅は狭くなりがち、手も小さく描いてしまう癖がある。そんな癖は失敗した線に正しい線を重ねることで初めて痕跡が残り、たくさん描くことでそれを自分の癖として確認できるのだ。
もう一点は私の長年の経験で学んだことだ。どうやら人間の目は正しい線と間違った線の両方が重なっている時、勝手に正しい方の線をつないで認識してくれるらしいのだ。
大切なことは、描き始めたら最後まで描き終えること。すると私の言っていることが実感できるはずだ。これで失敗を気にすることはずっと減る。
さらに慣れてくると、少し間違えたなと思っても、前の線を生かして次に引く線の重ね方を工夫すると間違った線でも正しく見えるようになる。より少ない線で、短時間で的確に表現できるようになるのだ。
このあたりは、これ以上理屈で説明しがたいところだ。是非自分でやってみてほしい。
さあ第一歩を踏み出そう。もうすぐあなたも絵描きの仲間だ。
P.S.
今回は自分の日常をスケッチする手段としてクロッキー帳を取り上げた。しかし本来、クロッキー帳はやはり本格的に人物画を描くための基礎練習の道具として使われることが多い。そして本気で人物のクロッキーをしようと思えば、実は今回の内容だけではやや不足がある。この先を知りたいという方は「人物画の基礎 クロッキーの道具と描き方→」を読んでほしい。きっと役に立つはずだ。
P.P.S.
私の日常を描いた「街角スケッチ→」をこのブログに掲載している。興味ある人は参考にしてほしい。
その他関連する記事を以下に掲載している。興味ある方は参考にしてほしい。
◾️カテゴリ「絵画上達法→」
◾️「デッサン練習中!何故上達しないの?→」
◾️「顔のデッサン練習中!?知っておきたい5つの勘違い→」
[…] まず冒頭の水彩画の説明をしておこう。この寺の名は願成寺。別名「達磨寺」という。 寺の門の前に2体の達磨の木彫があることから名づけられたという。 絵を描くのに使用した道具はいつもの0.3mmの油性サインペンではなく、イラスト用のペン(Tachikawaのラインマーカー)だ。このペンは先が万年筆のようになっていて、線の強弱がつけやすい。説明書きには太さ0.5mmとあるが弱いタッチで描けば0.1mmくらいでも平気だ。 今回はなぜサインペンではなく、イラストペンを使ったかというと、屋根や軒、欄干周りの木組みが細かく、サインペンでは滲んで表現できないと思ったからだ。 絵具は透明水彩。いつものウインザーニュートン製だ。 対象が単体の山門なのでスケッチブックの大きさはSM(サムホール)とした。(テーマによってスケッチブックの大きさを使い分けるコツはこちら→) 建物を中心とする絵を描く場合はやはり透視図法をマスターしておく必要がある。 一番大切なことは、自分の目の高さがどこかということ。そこが水平線になるので、屋根や欄干やすべてのパースペクティブな線はその水辺線上に集まる。この絵の場合は階段を登り切った段の鼻先のラインがスケッチブックにおける水平線だ。 この絵は2点透視で左側、右側それぞれに焦点があるが、いずれも画面からはみ出している。各水平線をいちいち焦点と結んでいてはどれだけ時間があっても足りなくなるだろう。 私の場合は何本か目印となる代表的なパースラインを先に引いておき、あとは高さ方向を半分、またその半分と記しをつけておいて、描くときの目安にしている。 この時、「下書きはしないのか?」という質問をよく受ける。私はよほど複雑な文様のある建物をそのまま描くとき以外は下書きしない。この時も鉛筆などの下書きはしていない。 パースの目安となる線も実はペンで直接描いている。ただし端から端まで一気に引かず、ところどころ切るようにしている。何故かというと、そのパース線がそのまま屋根や軒の線になる場合はいいが、実際には使わない線の場合、つながった線は「まちがった」線に見えて気になることがあるからだ。 逆に言うと切れた線は多少間違っていても、気にしなくていいい。人間の目は正しい方の線を自動的に認識してくれるからだ。(デッサン練習法についてはこちら→) 塗りは先にブルーで明暗をとり、上に葉の緑、柱や梁の茶色などを塗っている。軒下には最初に入れた影のブルーが残っているのがわかるだろうか。 […]
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